2022年9月15日更新
どんな建物の中にも必ず存在する空気。人が生きるためにはなくてはならない空気ですが、残念ながらその状態を目で見ることはできません。空気を科学的にとらえて、きれいな状態に保ち続けるために、建築物等の維持管理の世界では6つの項目の空気環境測定が行われています。皆さまの建物価値の大前提といえる室内の空気の安全性や快適性についての理解を深めていただくために、法律で義務づけられている空気環境測定の内容、クリアしなくてはいけない基準、具体的な実施方法について紹介します。
空気環境測定とは?
空気環境測定とは、不特定多数の人が利用する施設でオーナーに義務付けられているものです。多くの建物は、ビル衛生管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)」により空気中の成分を測定することが求められています。
これは、ビルのオーナーの義務であり、建物の利用者やテナントに、その義務はありません。そして空気環境測定を怠ったり、測定の結果の基準を満たしていない場合、行政措置や罰則(使用制限、使用停止など)の対象になります。
空気環境測定の対象
空気環境測定が義務付けられるのは、特定建築物とされる施設です、特定建築物となる条件は、「延べ面積」と「用途」で定められています。延べ面積は、3,000㎡以上(学校教育法第1条に規定する学校については8,000㎡以上)。用途は、興行場、百貨店、事務所、遊技場、店舗、図書館、学校教育法第1条に規定する学校以外の学校、ホテルや旅館、博物館、美術館、集会場、研修施設など。皆さまの中にも、特定建築物を所有している方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
空気環境測定の項目と基準
空気環境測定では、「浮遊粉塵」「一酸化炭素」「二酸化炭素」「温度」「湿度」「気流」の6項目を検査します。さらに空気調和設備のある居室は、6項目に加えて「ホルムアルデヒド」(新築、大規模修繕時の直近6月~9月の間に1回実施)も測定しなくてはなりません。
浮遊粉塵は、吸器系に影響を及ぼします。さらに花粉、ダニなどアレルギー性疾患につながるものも含んでいます。一酸化炭素は、一酸化炭素中毒につながりますし、また二酸化炭素は、一酸化炭素ほど危険性はなくとも濃度が高くなると、頭痛、吐き気などの症状が徐々に出てきます。
温度については、人の温度調節機能は5〜7℃(外気温度と室内温度の差)といわれていますから、過度の冷暖房は体調の崩れ(不眠、だるさ、肩こり等)につながります。また湿度は、低すぎると鼻や喉の粘膜が乾燥しますし、不快感ばかりでなく 感染症をまねき、逆に高すぎると建物にカビが発生します。気流は、人の快適性にも関係しますが、空調のコンディションと関わる指標となります。気流がない、気流が強すぎると、空調に不具合があります。
シックハウス症候群の原因ともなるホルムアルデヒドは、空気中に漂っていると、体調を崩す人が大勢出てしまいます。
<空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準>
浮遊粉じんの量 | 0.15 mg/m3以下 |
---|---|
一酸化炭素の含有率 |
100万分の6以下(=6 ppm以下) ※特例として外気がすでに10ppm以上ある場合には20ppm以下 |
二酸化炭素の含有率 | 100万分の1000以下(=1000 ppm以下) |
温度 |
(1) 18℃以上28℃以下 (2) 居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと。 |
相対湿度 | 40%以上70%以下 |
気流 | 0.5 m/秒以下 |
ホルムアルデヒドの量 |
0.1 mg/m3以下(=0.08 ppm以下) (新築、大規模修繕時の直近6月~9月の間に1回実施) |
空気環境測定の重要性と測定頻度
空気環境測定が義務付けられている理由
どうして空気環境測定が法律で厳格に義務付けられているのでしょうか。特定建築物に指定される大規模な建物は、開閉できる窓が少なく、ほとんどが空調システムで建物内の空気を循環させています。
そうした中で、空調や換気の設備に不良があると、汚れたままの空気が循環することになり、人体に深刻な被害を及ぼします。万が一、一酸化炭素が空気中に増えてしまうと、人命にも関わります。あるいは空調にカビなどが発生した場合は、常にカビの胞子を吸いこんでいることになり、肺炎など健康被害をひきおこします。ですから、施設内の空気が清潔かどうかを細かくチェックする必要がでてくるのです。
空気環境測定は、法律によって年6回行うことが定められています。特定建築物を所有する方は、2か月以内毎に1回のペースでの、空気環境測定を実施しなくてはなりません。
また、ビル衛生管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では、空気環境測定のほか、給水・給湯管理(飲用・炊事用・浴用等)、雑用水の水質管理、排水管理、清掃及び廃棄物、ねずみ等の点検・防除などがあります。
空気環境の測定方法
空気環境を測定するには、①測定頻度、②測定時刻及び1日の頻度、③測定点、④測定点の高さ、⑤法定測定機材がそれぞれ定められています。
① 測定頻度
1年を通して2ヶ月以内ごとに1回
② 測定時刻及び1日の頻度
浮遊粉塵、一酸化炭素、二酸化炭素の3項目については経験上定常状態と見られる時間帯で2回(始業後から中間時1回、中間時から終業前1回)の同じ測定点で行い、平均値を基準値と照合する
③ 測定点
各階ごとに居室の中央部を測定点とする。
広い居室の場合は床面積に応じて測定点を決める。
測定点数のとりかた例(東京都)
延床面積[㎡] | 測定を必要とする延床面積[㎡] | 1測定点あたりの床面積 | 1建物当りの測定点数 | 外気取入口付近の測定点数 |
---|---|---|---|---|
3,000 | 1,800 | 300 | 6 | 1 |
5,000 | 3,000 | 400 | 8 | 1 |
10,000 | 6,000 | 500 | 12 | 1 |
20,000 | 12,000 | 800 | 15 | 1 |
30,000 | 18,000 | 1,000 | 18 | 1 |
100,000 | 60,000 | 2,000 | 30 | 1 |
④ 測定点の高さ
測定高さは75~150cmの同一の高さで行うことになっている。
⑤ 法定測定機材
建築物衛生法施行規則3条では室内空気環境7項目(ホルムアルデヒド含む)について測定機器及び機材が定められている。現在では1台の機械で6項目(ホルムアルデヒド以外)を測定可能な機器もある。
まとめ
空気環境測定は、特定建築物において選任義務がある建築物環境衛生管理技士(ビル管理技士)が専門の資格を有する(空気環境測定実施者)を使って行います。
空気環境測定によって、空調や換気システムなど設備の調子もわかり、皆さまの建物を快適な空気環境に保つことができます。また法的な義務を果たすというだけにとどまらず、ビル管理技士の目で測定の結果、報告書を的確に分析することにより、中長期的な視野から空調設備のより効率的な維持管理計画を立案することも可能となります。
日本メックスにご相談をいただければ、建物の維持管理に関する豊富な知識と経験を持つプロフェッショナルが、皆さまの設備の空調をいかに管理するべきかをアドバイスさせていただきます。
(文:伊東慎一)
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