2020年7月30日更新
近年、自然災害・火災・疫病・テロ等に対するBCP(事業継続計画)が重要視されています。そのなかで建築物において重要な役割を果たす設備に、防災設備があります。
ここで使用する「防災設備」という用語は、国土交通大臣官房官庁営繕部の建築保全業務共通仕様書でも扱っています。そこでは、建築物の防災に対応する設備で、消防法による消火や警報などに係る設備及び建築基準法の避難や防火などに関わる設備を指し、そのほか災害後の対応に関するソフト面も含め防災設備と定義しています。
火災をはじめとする災害は、建物を脅かす最も伝統的かつ深刻なリスクです。いつ起こるかわからず、しかも警報、消火や避難のための設備に不備があると、一瞬にして貴重な建物の価値をなくしかねないばかりか、人命に関わる事態にもつながります。また、サーバルームやデータセンタービル等で通信障害によるサービス停止、膨大なデータ損失が発生すると莫大な経済的損失を招きます。そこで、防災設備に関する法律、そこで義務づけられた点検の内容など、建物を運営・管理する方ならば、必ず知っておかなくてはならない項目を解説します。
防災設備の目的
防災設備の一番の目的は、「災害から建物と人を守り、災害が発生した時は、早期に災害を感知し、発生を知らせ、人々の迅速な避難を助けて安全を確保すること」にあります。また火災の場合、駆け付けた消防隊のスムーズな消火活動や救命活動に必要な機能を提供することも、防災設備の役割となります。万が一、火災が起きた時、あらかじめ用意された防災設備によって適切に初期消火が行われれば、火災が広がらないようにし、被害が小さなうちに鎮火することができます。
防災設備についての法律
防災設備に係る基準には、消防法と建築基準法によるものがあります。ただし、防災設備という言葉そのものは消防法や建築基準法の用語にはありません。消防法による防災設備は、火災の早期発見・報知・通報等の情報伝達、消火、避難、消火活動上必要な設備・施設など、火災の進行状況に応じて各種設備が規定されています。一方、建築基準法による防災設備は、非常用エレベーターを除けば延焼拡大の防止と建物使用者の避難を支援するための設備を規定しています。建物の所有者や管理者は、これらの法律や規則に基づいて、防災設備の設置や点検を行わなくてはなりません。
代表的な法律や規則を次に解説します。
- 消防法
防火・避難・消火についての根本をあらわした法律です。消防機関の権限、消防用設備等の設置義務・更改義務、建物の規制内容などの、基本的な事項が定められています。 - 消防法施行令
消防法を施行するための政令です。消防用設備等が満たすべき技術的基準、救急業務、消防用設備等の検査などについての規則が定められています。 - 火災予防条例
国による法律や政令の他、各地方公共団体が火災予防条例を制定して、防火を推進しています。
条例では、消防法の委任を受けた事柄に加えて、地方の事情により必要とされる事柄、自主的に安全性向上のため規制すべき事柄などが定められています。 - 建築基準法
建築基準法では防火、延焼拡大の防止、在館者の避難を支援する設備、消火活動上必要な設備等の防災設備について規定しています。また、建築物・建築設備・防火設備・昇降機等について、定期的に専門の技術者に調査・検査をさせ、 その結果を地方公共団体に報告することが、建築物の所有者等に義務付けられています。 - 建築基準法施行令
建築基準法を施行するための政令です。耐火、防火、排煙設備、非常用の照明装置、昇降機・避雷針を含む建築設備などについての規則が定められています。 - 建築安全条例
地方公共団体は、その地方の気候もしくは風土の特殊性、土地の状況等により、可能な範囲で建築安全条例等の規則を定めています。
防災設備の種類
建物を災害から守るために必要な防災設備は、消火設備、警報設備、避難設備、消防活動用設備等、に大きく分けられます。防火設備は防火シャッター、防火扉、防火ダンパ等があります。それぞれの役割と具体的にどんな設備があるのかを紹介します。
消火設備
火の勢いを抑えて、延焼を防止するために使われる「消火器」、「屋内消火栓設備」、「屋外消火栓設備」、「スプリンクラー設備」などの設備です。駐車場の泡消火設備や、サーバルーム等に使用されるガス系消火設備も含まれます。火災がおきた時に、消防隊が駆け付ける前に、備え付けられた消火設備を使い、小さい火のうちに対処することができれば、鎮火の可能性が高まります。
警報設備
火災やガス漏れなどの発生を検知し、警報ベルなどを鳴らして建物内の人に報知するための設備です。「自動火災報知設備」、「ガス漏れ火災警報設備」、「非常警報器具」などがあります。また、通信機械室やサーバルーム専用の火災早期検知システムについても普及が始まっています。
避難設備
災害の発生時に、建物内の人が安全かつ迅速に避難できるように設けられた設備です。
避難する人が直接使用する設備(「避難はしご」、「救助袋」などの避難器具)と避難する人を避難通路・階段などへ誘導するための設備(「誘導灯及び誘導標識」、「非常用照明」など)があります。
消防活動上必要な設備その他
消防隊の消火活動に役立つように、建物に備え付けられている設備としては「連結送水管」(消防隊がホースを接続すれば、消防ポンプ自動車からの送水を使って消火活動ができるようにした設備)、「消防用水」、「非常コンセント設備」、「無線通信補助設備」、「非常用エレベーター」などがあります。その他の設備として、火災で発生した煙を有効に排除するための「排煙設備」、非常電源としての「自家発電設備」、「蓄電池設備」などがあります。
防火設備
防火シャッター、防火扉、防火ダンパ等、火災を遮る設備のことを指し、周囲で発生した火災に対して、20分間は加熱面以外の面に火災を出さない遮炎性能を有していることと規定されています。また、特に建築物の火災拡大防止上有効な区画として定められている「防火区画」には、1時間の遮炎性能を有する特定防火設備の設置が義務付けられています。
防災設備は改修・点検が重要
消火や避難のための設備は、いざという時に機能しないと被害の拡大を招きます。
「警報が正常に作動しなかった」「非常口へ誘導する誘導灯が切れていた」ということは、決してあってはならないことです。したがって、防災設備の内、消防用設備等については、消防法によって設置及び維持の技術上の基準に則って定期点検を実施することが義務づけられています。定期点検には、機器点検と総合点検があります。機器点検は6カ月ごとに、その設備がきちんと作動するか、外観に異常はないか、機能は正常かなどのチェックが行われます。また総合点検は一年に1回、設備を実際に作動させて、異常がないかを確認するというものです。点検周期の間に発生した、建物内の改修工事やテナント入れ替え等の工事について、ビル全体としての不一致や消防法・火災予防条例の改正等に適合しているかのチェックも含まれます。
建築関係の防災設備についても、定期的に検査をして、行政機関に報告する必要があります。例えば建築全体では特定建築物検査員、建築設備関係では建築設備検査員などの有資格者が定期的に検査を実施して報告します。
防災設備の点検と適切な改修を行うことで、法令を遵守するだけでなく、建物とそれを使う人を守ることができます。点検は、ややもすると軽んじられてしまう地道な活動です。しかしその効果に疑いの余地はありません。たとえば、自動火災報知設備は、「火災時に効果的に作動した割合は90%以上」と火災の早期発見に有効な設備であることがわかっています。
効果的に作動しなかった原因は、ベル停止、電源遮断、誤結線、受信機の警戒区域名が不明、未警戒区域からの出火等です。 そのほとんどは点検や改修で対応可能なものです。
まとめ
建築物の所有者や管理者等は、消防法並びに建築基準法により、一定規模以上の建物に設置されている防災設備について、維持管理に努めることが義務づけられています。その維持管理の要となるのが、点検作業です。日本メックスは、「消防設備士」、「消防設備点検資格者」、「特定建築物調査員」、「建築設備検査員」、「防火設備検査員」など有資格者による設備点検を実施すると共に、維持管理から調査・診断そして保全工事まで、トータルでサポートしています。
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