2020年11月13日更新
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業のBCP(事業継続計画)におけるパンデミック対策への注目が高まっています。BCP対策として自然災害を想定した緊急時のマニュアル整備や訓練などは、既に多くの企業で実施されてきています。しかし、インフルエンザやコロナなどの感染症については、BCP対策における対処すべき外的リスクと認識はされてはいたものの、ほとんどの企業は昨年来のコロナ禍によって本格的な取り組みをスタートしたばかりの状況にあります。BCPの強化に向けて事業所の感染対策を着実に推進したいという企業の皆さんのために、建物の視点から検討すべき環境づくりについて解説します。
BCP(事業継続計画)とは
企業経営のキーワードとしてすっかり浸透しているBCPですが、コロナをはじめとする感染症を想定したBCPに取り組むにあたり、その基本的な考え方や体系を改めて整理しておきましょう。そもそもBCPとは、Business Continuity Planの略です。企業が自然災害、大火災、テロ、感染症(コロナ)といった緊急事態に遭遇した時に、事業資産のダメージを最小限に抑えつつ、経営の中核となる事業を守り早期に復旧させるために、有事の前に行う活動や緊急時の対応方法を決める計画を意味しています。BCP対策のレベルは、持続可能な企業経営が重視される中で、取引先や投資先の選定条件ともされるようになっています。
経営活動で想定されるリスクは財務リスク・商品やサービスの欠落・労働安全上のリスクなど多岐にわたります。それらのリスクに対して想定できる被害をできる限り具現化し、経営活動として対処するのがリスクマネジメントです。そうしたリスクマネジメントの一つとしてBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)が位置付けられています。
BCMとは組織がリスク発生時にいかに事業の継続を図り、取引先に対するサービスの提供の欠落を最小限にするかを目的とする管理手法です。BCMの一環で「重要な事業を中断させない、また中断しても可能な限り短い時間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画を作成する。」これをBCPと呼びます。 Continuity Planの略です。企業が自然災害、大火災、テロ、感染症(コロナ)といった緊急事態に遭遇した時に、事業資産のダメージを最小限に抑えつつ、経営の中核となる事業を守り早期に復旧させるために、有事の前に行う活動や緊急時の対応方法を決める計画を意味しています。BCP対策のレベルは、持続可能な企業経営が重視される中で、取引先や投資先の選定条件ともされるようになっています。
有事の前、つまり平時に行うべきBCP対策は、次のようなステップで推進されます。
ステップ1 自社の事業を理解する
有事の際に、限りある人員や資材・機材の範囲内で、どの商品・サービスを優先的に提供するか(中核事業の特定)をあらかじめ意思決定しておきます。さらに中核事業に付随する業務(重要業務)とその継続に必要な経営資源の洗い出しを行います。
ステップ2 BCPの準備、事前対策を検討する
中核事業の継続に必要な資源が被災したことによって利用不能になった場合に備えて、重要施設(建物、ビル)、人材、通信手段、生活インフラ(電力、ガス、水道など)をいかなる手段で確保するかを検討します。さらに「ソフトウェア対策」(避難計画策定、従業員連絡網の整備、従業員教育など)と「ハードウェア対策」(建物の耐震化、倒壊の危険がある家具の固定、防災用品の備蓄など)の二つの面から対策を立案します。
ステップ3 BCPを策定する
事業継続に必要な情報の整理、文書化を行ってBCPを策定し、その発動基準、発動時の組織体制を明確化します。
ステップ4 BCP文化を定着させる
BCPの推進にあたる当事者=従業員が、BCP運用に前向きに取り組み、有効に活用することができるように、訓練や教育を継続的に実施します。
ステップ5 BCPの診断、維持更新を行う
BCPが陳腐化しないよう、定期的に見直しを行います。また必要性に応じて、資金(建物改修費、事前対策費用など)の確保を検討、実施します。
オフィスビルのBCPに役立つコロナ対策
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、オフィスビルでの感染対策をBCPに取り込む動きが加速しています。オフィスビルにおける感染リスクを低減させるには、従業員に対して手洗いやマスクの着用を徹底するだけでなく、「建物内でのコロナ感染をいかに低減させるか」という面からのアプローチが求められます。建物内の環境づくりを通して感染リスクを低減させる取り組みには、次のようなものがあります。
対面パーティションの工夫による飛沫対策
オフィスビルの飛沫対策として、デスク間にアクリルパネルのパーティションを設置する方法が広く普及しています。ただし、一般的な透明アクリルパネルを使う場合、「パネルの高さが不十分」「横からの飛沫がガードできない」といった問題点に要注意です。日本メックスでは、軽量で強度があり、なおかつ抗菌剤が配合された中空ハニカムパネルを使って、隣との仕切り板、向かいとの仕切り板からなる新しいタイプのパーティションを提案しています。
二酸化炭素密度のモニタリング
コロナ禍においてテレワークが浸透する一方で、フェースツーフェースの濃密なコミュニケーションをとることができるリアルなオフィスの価値も再評価されています。リアルなオフィス空間での感染症対策の基本となるのが、頻繁な換気です。空気の循環状況を計測するためには、既に複数の企業から発売されている二酸化炭素の密度を測るセンサーを活用することができます。
ビル換気構造
建物の換気方法にはいくつかの種類がありますが、一般にオフィスビルや商業ビルでは、吸気と排気をともに機械で行っている。つまり空調設備によって行う一種換気と呼ばれる方法がとられています。空調設備やビル管理の専門家に相談して、次のような項目について点検し、適切な対策を実施する必要があります。
- 事務所や店舗内が密になってないか
- 換気フィルター、全熱交換器のフィルターは汚れていないか
- ダンパーの開閉は十分か。
- テナント側が換気をOFFにしていないか。(商業ビルなどで個別に空調制御している場合)
感染が起こりにくいレイアウトのシミュレーション
オフィスレイアウトの工夫によって、感染リスクを低減することができます。建物内の空気の流れや、そこで働く人の動線をシミュレーションし、「どこを作業エリアとするのが最適か」「座席の配置はどうすべきか」などを検討することが重要です。
建物内のシステムを非接触式化
オフィスビルを非接触で利用できるように改修することも、感染症対策につながります。具体的には、不特定多数が出入りする入口では、ICカードや顔認証でロックが解除されるセキュリティシステム、事前に発行したスマホのQRコードをタブレットにかざすことで担当者を呼び出せる受付システムなどを検討します。また執務スペースでは、ペダル式のごみ箱への変更、触れなくてもスイッチのオン/オフができる自動点灯照明の導入などが考えられます。
建物を軸としたBCP対策とは
新型コロナウイルス対策に焦点を当てたオフィスビルのBCP対策を詳しく紹介してみましたが、災害大国といわれる日本では、地震や台風などへの備えとして、建物のBCP対策の重要性は極めて高いといえます。今取り組むべきと思われる「建物を軸としたBCP対策」をピックアップしてみました。自社の現状に当てはめてみて、その必要性をご検討いただければと思います。
拠点の分散
事業の拠点を複数の拠点に分散し、どちらの拠点においても同様の事業が行える設備、人員を用意し、緊急時のシュミレーションを定期的に行う対策方法があります。
耐震性能
建物のプロによる耐震診断を受けることにより、耐震性を評価してもらい、問題があれば適切な耐震化工事を実施します。「耐震壁」を増設する工事、「ブレース」(鋼管やH型鋼などの型鋼)による補強工事などの方法があります。
安全の見える化
地震直後の建物の安全度をどう判断するかは、管理者の皆さんを大いに悩ます問題です。NTTファシリティーズの「揺れモニ®」など、地震測定データや高度な解析技術を使って、建物の継続利用に関する安全度を測定するシステムの採用をお勧めします。
給水の確保
地震直後で利用者が建物を使い続けるために必要となる最低限の設備のひとつが給水設備です。地震が発生すると、地盤のずれや建物の損傷により、給水管が破断する恐れがあります。建物の保守や改築の専門家に相談すると、給水管の耐震化や給水タンクの設置など、非常時でも給水を確保するためのアドバイスを受けることができます。
管理者としての防災体制整備
防災意識の高まりに伴って、テナントとして入居する際に当該建物の防災体制を物件選定の基準にする企業が増えています。建物の所有者、管理者の皆さんは、防災訓練の実施や防災用品の備蓄など、万が一に備えた体制を充実させなくてなりません。
非常用電源の設置
最新の建物では、停電に備えて発電機、蓄電池といった非常用電源を備えています。事業継続に必要となる施設や機器の消費電力などを整理して、建物の管理会社に相談することで適切な導入プランを提案してもらうことが可能です。
オフィスにおける新型コロナウイルスの対策
オフィスでのコロナウイルス対策は、昨年来の混乱が続く、自社としてどんな取り組みをすべきか、まとめきれていない企業も多いのではないでしょうか。日本経済団体連合会(経団連)が政府の指針や専門家会議の分析・提言などを踏まえて、検討すべき施策として次の10項目を発表していますので、参考にしてください。
本コンテンツでは、簡略化して紹介していますので、正式な内容は「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」(経団連)をご覧ください。
(1)感染予防対策の体制
経営トップが率先し、感染防止のための対策の策定・変更について検討する体制/ 関連法令上の義務を遵守/衛生委員会や産業医などの産業保健スタッフの活用/国・地方自治体・業界団体などを通じた、正確な情報収集
(2)健康確保
出勤前に従業員への健康状態確認/勤務中に体調が悪くなった従業員、症状がなくなった自宅療養者の出社判断など
(3)通勤
テレワーク(在宅やサテライトオフィスでの勤務)、時差出勤、ローテーション勤務(就労日や時間帯を複数に分けた勤務)、変形労働時間制、週休3日制の推進など。
(4)勤務
2mを目安とする人員配置/マスク、手洗いの徹底/飛沫感染対策をした座席配置/換気対策/外勤や出張時の行動ルール/オンラインによる業務の推奨
(5)休憩・休息スペース
共有する物品(テーブル、椅子など)の定期的な消毒/休憩スペースの追加設置や混雑対策/休憩スペースや社員食堂の三密対策など
(6)トイレ
便器の清掃、消毒、洗浄に関するルールの徹底/ハンドドライヤーの利用禁止/共通タオルの利用禁止/ペーパータオルの設置/個人用タオル使用の持参
(7)設備・器具
共有設備(ドアノブ、電気のスイッチ、手すり・つり革、エレベーターのボタン、ゴミ箱、電話、共有のテーブル・椅子など)の頻繁な洗浄・消毒/ゴミのこまめな回収、鼻水や唾液などがついたゴミのビニール袋への密閉/ゴミの回収など清掃作業を行う従業員のマスク・手袋着用、作業後の手洗い徹底
(8)オフィスへの立ち入り
外部関係者の立ち入りの必要性の検討、立ち入りを認める場合の従業員に準じた感染防止対策/外部関係者へのオフィス内での感染防止対策の理解促進/オンラインでの名刺交換推進
(9)従業員に対する感染防止策の啓発など
従業員への感染防止対策の重要性理解と日常生活を含む行動変容の促進/マスクの着用、咳エチケットの励行、車内など密閉空間でのノー会話の徹底/感染者、医療関係者、海外からの帰国者、その家族、児童などの人権への配慮/体調が思わしくない場合、濃厚接触の可能性がある場合、あるいは、同居家族で感染した場合の休暇や在宅勤務の利用奨励/濃厚接触者へ自宅待機の指示/取引先企業への従業員と同様の取り組みの推進
(10)感染者が確認された場合の対応
従業員の感染が確認された場合の対応/複数社が混在する借用ビル内で同居する他社の従業員に感染が確認された場合の対応
まとめ
自然災害やパンデミックから従業員の生命、大切な資産を守り、事業を継続するためのBCPは、企業経営の根幹をなす取り組みです。そして今、新型コロナウイルスという新たなリスクにより、企業のBCP対策には早急なバージョンアップが求められています。コロナを想定したBCP対策を強化するには、リアルな企業活動の舞台となるオフィスの建物や設備面の対策が必須となります。日本メックスでも長年にわたって建物の維持管理・保全工事に携わる中で培ってきたノウハウをいかしたコンサルティング、また、内装工事、耐震改修工事、防災設備点検、空気環境測定などのサービスを通して、企業のBCP対策をサポートしていますので、お気軽にお問合せください。
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